「リングにかけろ」概要
作者/車田正美
掲載誌/週刊少年ジャンプ
連載期間/1972年2号~1981年44号
主な登場人物/高嶺竜児 高嶺菊 剣崎順 香取石松 志那虎一城 河井武士 など
主人公高嶺竜児がプロボクサーだった亡き父の遺志を継いで世界チャンピオンを目指すべく、姉である菊の教えを受けて成長していくいわゆるスポ根系のボクシング漫画。
略称「リンかけ」
リングにかけろ 世界大会決勝 日本代表vsギリシャ代表PART①
パンドラの箱
世界大会決勝は日本代表vsギリシャ代表の一戦。
これまで様々な難敵に勝利をおさめてきた日本代表だが、いよいよこの戦いもクライマックスをむかえる。
この試合の前にも例によって、日本代表の元に不吉な兆しがある。
決戦直前、竜児の元にパンドラという少女が現れ「パンドラの箱」という謎めいた箱を置いていく。
まてよ。このパンドラという単語はどっかで聞いたことがあるぞ。
文献を調べてみると、
「パンドラの箱」はギリシャ神話でゼウスが絶世の美女パンドラに贈った災いの詰まった箱のことです。
ギリシャ神話最高の神であるゼウスは、パンドラを地上に送るとき、絶対にふたをあけてはいけないといって、この箱を持たせました。
地上についたパンドラは好奇心から箱のふたをを開けてしまいます。すると箱の中からすべての災いが飛び出しました。急いでふたを閉めると、箱に希望だけは残ったのだそうです。
「パンドラの箱」とは、現在では触れてはいけないもののたとえとして使われています。
まちがって触れてしまう(実行に移す)と、災いが起こったり相手を傷つけてしまったりする可能性があることです。
日本では「触らぬ神には祟りなし」という似たような意味の格言がありますね。
この話の通り、パンドラという少女は竜児に「箱を絶対に開けてはならない」といい残して、去っていった。
にもかかわらず、この箱を不用意にも石松が開けてしまう。(石松のやらかしそうなことだ)
河井が「ダメだ、その箱を開けてはいけない!」
と激しい口調でとめたが、時すでに遅しであった。
箱の中身は何もなかったが、伝説が本当なら箱の中に潜む何らかの災いが日本代表に降りかかることになるのかもしれない。
「たとえこれが災いをふりまくパンドラの箱であったとしても、その底にはたった一つだけ、希望という名の光が残されているはず」
「ぼくたちにも勝利の女神の微笑みがきっと残されているはずだ」
と、つぶやき、ひとまず自分を納得させた河井であった。
しかし災いは予想以上に早く訪れることになる。
決戦前夜、パンドラという美少女が再び現れ、日本代表が箱を開けてしまったことを知ると、どこからともなく大勢のギリシャのヤンキー共が闇の中から姿を現した。
河井と石松が相手をするが、ただのヤンキーであっても数が多すぎて、やや手こずってしまう。
そこへ竜児を始め、他の代表メンバーが助っ人で駆けつけ、ザコの軍団をバッタバッタと倒していった。
「まて!!」
と声がして、現れたのはおせっかい男アポロン率いるギリシャ代表のメンバーだった。
今まで彼らの顔はシルエットで隠されていたのだが、アポロンだけその表情が明らかになっていた。
ロングの妙な髪形だが、顔自体はキリッとした男前だった。
アポロンはヤンキー共に対し、怒りが爆発せぬうちに消えてなくなれと命令した。
どうやら、こいつらを送ったのはアポロンではなかったらしい。
そういえばパンドラが「あの方」の指示でパンドラの箱を日本代表に届けたと言及していたっけ…。
「あの方」がアポロンでないなら、ギリシャにはまだバックに黒幕がいるということなのか?
アポロンはヤンキー共の非礼を詫びるどころか、 自信満々に自分たちの完全勝利を宣言して、他の4人とともに姿を消した。
果たして河井のいう通り、勝利の女神は日本に微笑むのか。
いよいよ注目の決勝戦が始まる。
菊からの誓いの旗
ギリシャ決戦当日、竜児の姉・菊は日本代表のことを心配するあまり、高熱にうなされ、大村医院にて寝入っていた。
彼女は日本代表の試合の前に彼らにどうしても持っていかなければならないものがあるので、会場へ出向くといってきかない。
菊が持っていきたかったのは日米決戦の時に作った日本代表メンバー5人の名前が記された日の丸の旗であった。
菊はギリシャ戦が間違いなく、これまでで一番過酷な試合になることを予測していたのだ。
彼女はベッドを抜け出し、ロクさんとともに日本代表の元を訪れ、無事彼らに誓いの旗を渡す。
「菊、勝利のあかつきにはおめえの手でその旗を上げてくれ!」
剣崎の言葉によって、勝利を固く誓う日本代表5人であった。
第1戦~4戦実況
日本代表vsギリシャ代表の決勝戦がいよいよスタート。
第1試合は志那虎一城vsユリシーズ。
試合前のギリシャサイド、志那虎の右腕は使えないため、左さえ封じればおのずと勝利はやってくるとアポロンがユリシーズにアドバイスを送る。
そして決戦のゴング。
開始早々、ユリシーズは前に詰めて強烈な右フックを放ち、志那虎早くもダウンを喫す。
その後も立ち上がった志那虎にユリシーズの容赦ない攻撃がヒットしまくる。
彼の前では伝家の宝刀、神技的ディフェンスも全く通用しない。
さすがはギリシャ代表だ。これまでの相手とははるかにレベルがちがう。
「このままではやばい」と感じた志那虎は早くも必殺のスペシャルローリングサンダーを打って出る。
しかし、ユリシーズには全くかすりもしない。これは非常事態だ。
為す術を失った志那虎にユリシーズの必殺技トロイアクライシスがヒットする。
さすがに強敵のギリシャ、最初に出てくる選手からちゃんとフィニッシュブローを持っているようだ。
これで万事休すか?
その頃、京都の志那虎邸では一城の父親が名刀備前長船を自身の腹に当てがい、一城が負けた時は「わしも逝くぞ」といって身構えていた。
そんな大げさなと思わないでもないが、この父親は過去に志那虎の右腕をだいなしにしてしまったことを今更ながら反省しているのかもしれない。
立ち上がってきたものの半死半生の志那虎にとどめのトロイアクライシスが飛んでくる。
志那虎は神に祈った。
「これからの何十年の人生をかけてもいい、一度だけ、たった一度右腕よ動け!!」
そして奇跡は起こった。これはパンドラの箱に残された希望がなせる技か?
志那虎の右腕が一瞬上がり、ユリシーズの顔の直前でとまる。
上がるはずのない右腕の動きに不意をつかれたユリシーズ。
そこを見逃さず志那虎のスペシャルローリングサンダーが今度こそ炸裂。
これで逆転勝利だ。
しかし、これまでユリシーズから受けたダメージがひどすぎた。
志那虎の顔に暗い影がかかる。まさか……
さらば志那虎、猛虎よ眠れ。
第2戦は河井武士vsオルフェウス
試合前、この死闘の場にはふさわしくない甘美なメロディーがどこからともなく聞こえてきた。
何とこともあろうにオルフェウスが竪琴(ハープ?)を奏でながら登場したのだ。
いつも通り河井の相手ということで、この男も中性的な雰囲気で、今回は音楽というキーワードまで合わせてあるようだった。
何でもこのオルフェウス、ベートーベンやモーツァルトも真っ青な今世紀最大の天才音楽家らしい。
ならボクシングなど危険な道を捨てて、そっちの道を究めればいいと思うのだが、それはピアノに長ける河井にも同じことがいえた。
何にせよ世紀の中性的アーティスト対決が始まるべくして始まる。
開始直後から河井、積極的にパンチを放っていくが、オルフェウスはこれをことごとくかわしていく。
河井は敵の姿をはっきり捉えていながら、全く見当違いの場所をねらってパンチを打っていたようだ。
そして「これが君へのフィナーレだ!」
の掛け声と共にオルフェウスの必殺技デッドシンフォニーが河井に炸裂する。
ここで待ってましたとばかり、姉・貴子とのピアノレッスンの回想に突入。
河井が挑んでいる曲はバッハのフーガだ。
単調なメロディーの繰り返しなのだが、追いかけても追いかけてもまるで逃げ水のように際限がない。
「楽譜だけを見て、目に頼ろうとするから、ミスってしまうのよ」
「メロディーがわかったらあとは目を閉じて、音だけを追っていくことね」
貴子の的確なアドバイスが差し込まれる。
なまじ見えるからそれに頼ろうとする。なまじ見えるから……。
貴子との練習中の記憶がオーバーラップする。
河井、からくも立ち上がるが、たった一発のパンチでもはや瀕死の状態だ。
オルフェウス、とどめの一発を打とうとする。河井これを目を閉じて何とかかわす。
「ぼくの前にいるのは実体ではない、追ってもおいつかない逃げ水だ」
ならば、河井は目を閉じ、実体とは逆の背後に振り向きざまジェットアッパーを力強く放っていく。
これが大~あた~り~。
オルフェウスダウン。河井勝利するも、またまた場面が暗転し…..
さらば若武者、河井武士のエンド
志那虎に続き河井も逝ってしまったというのか….?
続いて、第3戦は香取石松vsイカルス
「君は跳躍が得意らしいが、このイカルスの前ではバッタも同然だよ」
いきなりのイカルスの挑発に対し、
「ならばおめえは鳥かよ、おもしれえ、じゃあとっつかまえて焼きとりにして食ってやらア」と石松らしい返し。
舌戦でも両者一歩もひかず、実戦へ
開始直後、石松がパンチを打とうとすると、イカルスひらりとかわし、上空へダイブ。
すごい跳躍力だ。やつはやっぱり鳥そのものだ。
そしてハリケーンボルトのお株を奪うかのような急降下パンチを石松に浴びせる。
跳躍では負けていられないとばかり、
石松もテイクオフ!
それを追って、イカルスも再びジャンプ。
だめだ、イカルスは石松のジャンプ到達点をはるかに超えてくる。
イカルスどりにはやはり叶わないのか?
見事な跳躍を見せたイカルスは空中で石松をロックオンし、そのまま必殺技スカイトリプルダンシングをお見舞いする。
空中で右・左・右の強烈なコンビネーションを放つ。
どうやらイカルスどりは滞空時間を長く取ることができ、空中で自由自在に動き回れるらしい。
これを食らった石松、何とか立ち上がるが、血まみれで意識も朦朧としている。
しかしまだその目は死んではいない。
「おら、こいよ、おっちゃん」
ロープにもたれながら、イカルスの攻撃を誘う。挑発に乗ったイカルスが突っ込んできたところで石松のビッグジャンプ。
おーーーっ!
これはイカルスどりの跳躍に匹敵するジャンプだ。
石松はロープの反動を利用して、ジャンプしたようだ。
そして天井に取り付けられた強烈な閃光を放つ照明と自分の体を重ねる。
「なにい、やつの姿が見えん」イカルス、閃光がまぶしすぎて一瞬視力を失い、石松の姿を見失う。
今がチャンスとみた石松はここでハリケーンボルトを発射し、勝利をもぎ取る。
しかしやはりここで再び石松の顔を暗い影が覆い、エンド….
さらば、ケンカ番長、
香取石松
マグナムに続く新パンチ
いよいよ大詰め、副将戦は剣崎順vsテーセウスの戦い。
試合前、剣崎はグラブにお守りを身につけていることを竜児から指摘され、おもむろに語りだす。
「お前にだけはいっておくがな、これは俺がこの世で1番大切な女がくれたものだ」
竜児は気づいた。その女とは紛れもなく自分の姉・菊だ。
この時の竜児の心境はもしかするとかなり複雑だったかもしれない。
これまで苦楽を共にしてきた自分の姉が自分の最大のライバルのことを思い慕っているということに。
そして剣崎がなぜこのタイミングでそんなことをいうのかも竜児には想像がついたと思われる。
剣崎は他のメンバー同様、この試合後の自分の死を覚悟したのかもしれない。しかしここで逝ってしまったなら、竜児との未来の対決はなくなってしまう。
やはり勝って生きねば、剣崎はそう心に強く誓ったはずだ。
そうこうするうちに試合は始まる。
剣崎、先制攻撃を仕掛けていくが、やはり他の試合同様、テーセウスにパンチは当たらず、逆に滅多打ちにされ手も足も出ない。
「こいつらはおれたちの数倍の実力を持ってやがる」
「だが、俺の命を懸けて戦う相手はこの世に一人しかいねぇ」
剣崎にとっては、菊ばかりか、竜児もかけがえのない存在にちがいない。
雄叫びをあげながら、右ストレートを放っていくが、そこへ合わせるかのごとく、テーセウスのフイニッシュブロー、ハートブレイクキャノンが大爆発する。
ハートブレイクキャノン
何とも響きの心地よい、それでいて相手を的確にとらえることをイメージさせるクールなネーミングではないか?
本作にはいろいろなネーミングのパンチが登場するが、中でも群を抜いてセンスあるパンチ名だなあと、リアルタイムで読んでいた頃から思っていた。
SHOWK!!!
そのかっこいいハートブレイクキャノンの衝撃で剣崎の体が宙に舞い、コーナーポストに胸の部分が突き刺さる。
ネーミングだけでなく、パンチの威力もハンパない。
しかし剣崎、胸の当たりに忍ばせていた菊がくれたお守りにからくも守られる。
その代わりポストに衝突したことでアバラが2~3本折れてしまったようだ。
そうくるならあれを出すしかない、
ギャラクティカマグナムとハートブレイクキャノンの一騎討ちだ。
これはリンかけの中でも最上級パンチの激突といってもいいだろう。
BACOOOM!!!
リング上のキャンバスが張り裂ける。まるで原爆、いや水爆同士のぶつかりあいだ。
場外へ吹っ飛んだのは剣崎の方だった。ハートブレイクキャノンの威力がマグナムをやや上回ったのか?
剣崎危うし、だがもちろんこのままでは菊のため、竜児のためにも終われない。
歯を食いしばり、ギリギリのところで立ち上がってくる。
「もう一発、マグナムとキャノンの相討ちをやってみるかい?だが、今度こそお互い死ぬことになるだろうがよ」
満身創痍の状態ながら、剣崎がそう挑発する。
さすがのテーセウスもこの言葉にややひるみ、キャノンではなく、普通の攻撃でとどめをさそうとする。
剣崎にしてもマグナムが打てないのであれば、決め手に欠くことは同じだ。
一体どうしようというのか、すると、
「仮にも天才といわれたこのオレがたかが一発の新パンチを生み出すために死ぬほどの特訓をやったと思うか?」
ということは、まさか
「右のマグナムにもまさるパンチがこの左腕にも宿っているのよ!」
というが早いか、剣崎の左腕がうなり、隕石がはじけ飛び、もう一つのニュースーパーブロー、ギャラクティカファントムがお初に放たれる。
テーセウスは例によって場外へダイブだ。
アポロンの助太刀さえ叶わなかったところを見ると、またしてもこの瞬間にパンチでぶっ飛ばされた飛距離部門の記録更新となったのかもしれない。
そして、
さらばスーパースター、剣崎順
のエンドカット。
竜児との決着をつける戦いを誓ったはずだが……
命をかけた壮絶な戦いはいよいよ大将戦を残すのみ。高嶺竜児vsアポロン、世紀の一戦が始まる。
PART②へ続く
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