リングにかけろ

リングにかけろ 世界大会準決勝 日本代表vsドイツ代表PART①

「リングにかけろ」概要

作者/車田正美

掲載誌/週刊少年ジャンプ

連載期間/1972年2号~1981年44号

主な登場人物/高嶺竜児 高嶺菊 剣崎順 香取石松 志那虎一城 河井武士 など

主人公高嶺竜児がプロボクサーだった亡き父の遺志を継いで世界チャンピオンを目指すべく、姉である菊の教えを受けて成長していくいわゆるスポ根系のボクシング漫画。

略称「リンかけ」

リングにかけろ 世界大会準決勝 日本代表vsドイツ代表PART①

ヘルガの日本代表訪問

世界大会準決勝は日本代表vsドイツ代表の一戦。

ドイツ代表は総帥スコルピオン、その参謀天才ヘルガ、そして包帯グルグル巻きのうす気味悪いミイラ男3兄弟という布陣。

スコルピオンはJr.ナチスの親衛隊に守られ、ヒトラーさながらの権力を誇示しているようだ。

決戦前日、ヘルガが総帥スコルピオンの特使として、日本代表の元を訪れた。

ヘルガは、この一戦に日本が負けた場合、日本代表がドイツチームの傘下に入ることを誓約する署名を求めてきた。

何とも一方的な要求だが、ドイツ側の行動はWBCWBAからなる既存のボクシング組織を解体し、若き才能あるボクサーを集め、新しい組織を作り上げるという何とも壮大なプロジェクトのためのようだ。

ドイツチームはその組織の先頭に立ち、ひいては世界征服を目論んでいるとのこと。

ドイツ代表は現代によみがえった、まさにナチスドイツといった雰囲気だが、考えてみれば作品の設定として、彼らはまだうら若き15~16歳ぐらいの年齢、いわば子供である。

そんな彼らがいっちょ前にボクシング界を牛耳るなど、現実離れもはなはだしいわけだが、そこはマンガなので、目をつぶるほかあるまい。

さてヘルガにより一方的な署名をつきつけられた日本代表だが、もちろん

はい、わかりました」と素直に同意するわけもなく、

チームを代表して志那虎は

その構想はすばらしいがなあ、おめえらのドレイになるのはごめんだぜ!!

と要求をはねつけ、この交渉は決裂する。

これに対し、頭脳明晰なヘルガはこの一戦に備えて、

日本代表のスーパーブローを全て研究し尽くし、それらを封じ込めるための完璧なデータと戦略を用意している」と発言。

よって日本代表は100%負けると自信満々である。

かくして日独の存亡を賭けた血戦の火蓋は切って落とされることになる。

剣崎~眠れる獅子

ドイツ戦の開始直前、1台の救急車が慌ただしく会場に到着した。

運ばれてきたのは誰あろう、日本が誇るスーパースター剣崎順だった。

日本代表メンバーがその剣崎のもとを訪れると、そこへフォーマルな出で立ちの金髪美女が登場する。

彼女の名はキャサリン、コンゴルドクラブケンザキジム・ニューヨーク支部のスタッフらしい。

キャサリンの説明によると、剣崎はここのところ姿が見えないと思ったら、何と発電所にこもり、高圧電流の中で自身の新しいフィニッシュブローを身につけるべく、奮闘していたのだそうだ。

電流といえば、まず我々が想起するのは電流爆破でおなじみの大仁田厚だが、この剣崎の行動はまさに大仁田ばりの破天荒さである。

電流を浴び、体がボロボロになりながらも何とかドイツ戦に向けて新兵器を間に合わせてきたようだ。

金持ちのボンボンながら、恐るべしど根性である。

彼は今眠っているが、自分の番までには目覚めるだろうとキャサリンはいった。

その時には世界がいまだかつて経験したこともない奇跡と震撼に見舞われるであろう。ともいった。

さらに彼女は剣崎の命令により、ドイツチームの欠点から長所まであらゆるデータが収められているというオデッサファイルを日本代表に用意したという。

高圧電流の中、生み出された剣崎の新パンチはドイツ戦のハイライトとなりそうだ。

第1戦~3戦実況

日本代表vsドイツ代表開戦。

先発は特攻隊長香取石松、対するは包帯グルグル巻きミイラ男3兄弟の一人ゲッペルス

ゴングが鳴るやいなや、短期決戦をねらう石松は早々とハリケーンボルト発射のため、空中へ高々とジャンプする。

通常通り、最高到達点から下にいる敵をめがけて急降下しようとするが、眼下に当のゲッペルスが見当たらない。

(野郎、どこへいきやがった?)

石松が戸惑っていると、なんと背後からゲッペルスのパンチが飛んでくる。

ゲッペルスは石松が空中へジャンプするのと同時にブラインドをついて、同じ高さまでちゃっかり跳躍していたようだ。

ゲッペルスの不意打ちをくらった石松はそのまま勢いよく、真っ逆様にリングに叩きつけられる。

ここでキャサリンが登場。

オデッサファイルを元にゲッペルスは石松のハリケーンボルト対策としてガリレイの落体の法則を応用しているとの説明が始まる。

もちろん、これはミイラ男の発想ではなく、参謀ヘルガが授けた作戦にちがいない。

誌面にも物理学の公式などが、事細かく記述されるが、小難しく頭が痛くなりそうなので割愛させていただく。

予期せぬダメージを与えられた石松だったが、まだその特攻精神は失われていない。

立ち上がりざま、またしてもテイクオフ….(ゲッペルスも当然それに合わせてジャンプしているはず)….と見せかけてその場にステイ

石松のフェイントにまんまとはまり、空中へ放り出されたゲッペルスは為す術泣く、そのまま落ちてくるしかない。

無防備なミイラ男の顔面に石松は渾身の右ストレートをぶち込む。

その後、とどめのハリケーンボルトを打とうとするが、ここで無情にも1R終了のゴング。

ゲッペルスは「ゴングなど無視して、ハリケーンボルトを打てば勝てたものを2ラウンド目は後悔することになるぞ!

と負け惜しみを吐き、いかにも2Rで波瀾が起こるような素振りを見せた。

しかし2Rが始まっても、そんな奇跡はついぞ起こらず、普通にハリケーンボルトを食らって、撃沈。

2Rに突入する意味があったのか、はなはだ疑問ではあるが誌面の都合かなにかだろう。

ともかく石松の頭脳的プレーで日本代表、まずは1勝目を上げる。

第2戦はいぶし銀志那虎一城vsヒムラー(ミイラ男の2人目)

この試合は以前、志那虎の必殺技紹介の記事で1度取り上げたことがある。その時の模様を振り返ろう。

必殺技(スペシャルローリングサンダー:SRS)で連戦連勝を重ねてきた志那虎だが、

世界大会準決勝のドイツ戦で事件は起こる。

志那虎は2番手を努め、ヒムラーという包帯グルグル巻きのミイラ男のような選手と対決。

相手のヒムラーは志那虎のパンチを0.002秒上回るスピードを持つ。

ほとんど差はないように思えるが、どうしてどうして、ボクシングの世界ではわずかな差でも勝利を左右するのだ。

なんとこのヒムラー、志那虎よりも速いパンチを打てることを生かして、

スペシャル・ローリングサンダー5発全てにクロスカウンターを放つという荒技をやってのけたのである。

これが有名なスペシャル・クロスカウンター(SCC)だ。

これは、これまでに何度か登場したドイツ代表参謀の天才ヘルガが対志那虎用に考案した作戦のようだ。

さてスペシャルローリング・サンダーが破られ、

志那虎危うし?と一瞬思われたが、この男がその程度の劣勢であきらめるわけはない。

そこは歴戦の強者、血の滲むような刃扇風機特訓で鍛えたメンタルは伊達ではない。

試合に戻ろう。

ヒムラーのSCCによって、追い込まれた志那虎は何を思ったか、再びSRTを発動。

誰もが、なんて無謀な、さっきの二の舞になるぞ、と思った。

当然ヒムラーはSCCを合わせてくる。

なんとここで志那虎は意表をついてヒムラーのカウンター狙いのパンチをことごとく拳で打ち砕いていく

これでスペシャル・クロスカウンター破れたり。

動揺したヒムラーの隙をついて、志那虎は三度目のSRSをうち、今度は急所を的確にとらえ、逆転勝利を奪った。

というわけで、ヘルガの作戦に苦戦しながらも日本代表、何とか2連勝をおさめる。

続いて、第3戦は越後の貴公子河井武士vsゲーリング(ミイラ男の3人目)

おっとゲーリングは他の男同様に包帯グルグル巻きに変わりはないが、頭部はあらわになっていて、セミロングの髪形をしており、やや女性的な雰囲気だ。

河井の相手は河井のキャラクターに合わせて、女性的な選手が必ず用意されている。

ミイラ男にまでそれを反映させるという筆者のこだわりがうかがえる。

開始早々から河井は惜しげもなく、伝家の宝刀ジェットアッパーを放っていく。

この頃には作品当初に見られたような相手の様子をうかがう場面や細かい攻防などは一切なく、よくも悪くもいきなりフィニッシュブローの打ち合いが当たり前となってきている。

時を戻そう。

ゲーリングは飛んできたジェットアッパーをバック転の要領でかわし、その勢いを借りて河井にパンチを返す。

これには完全弾性衝突の原理???が応用されているらしい。ここで再びキャサリンのまどろっこしい解説が入るが今回も割愛しよう。

またしてもヘルガのフィニッシュブロー封じに沿った展開だが、河井もこのままでは終わらない。

再びジェットアッパーを打つと見せかけて(何かこのパターン多くない??…) 左のノーマルアッパーを放つ。

ゲーリングは○○の一つ覚えでバック転を見せるが、ジェットアッパーならパンチを返すことが可能だが、普通のパンチにはなぜかこの原理は使えないらしい。

無防備な態勢となったところへ、今度は正真正銘、ジェットアッパーが炸裂する。これで決まり。

しかしここまでのミイラ男たちの戦いぶりをみると、戦前の威勢のよさはどこ吹く風で非情に不甲斐ないといわざるを得ない。

後程ヘルガやスコルピオンにこっぴどく叱られたことは想像にかたくない。

これで3連勝。2試合残ってはいるが、日本代表はこの時点で決勝進出を決める。

PART②へ続く